新人理学療法士の頃って何を勉強したらよいのよくわかりませんよね?
私は新人の頃、同じ職場の先輩達がある徒手療法を多用していた影響もあってひたすらその徒手療法に励んでいました。
患者さんにババっと徒手療法を行って痛みが取り切れたらめっちゃカッコイイというありがちな思いでした。
そんな中で、うまく結果の出せる患者さんも少しずつ増えてはきましたが、ある事に気づき始めました。
結果を出せると思っていた手技で治療しても治らなかった時、他の引き出しが全くない。。。
他のスタッフに申し送りをする時に、患者さんの状態をうまく説明できない。。。
手技ばかりに走っていたため、最も大切な患者さんの評価を疎かにしていたのです。 今思うと本当情けないと思います f^_^;
そんな出会ったのが、MSIアプローチでした。
アメリカのワシントン大学のサーマン教授を中心に開発された概念です。
MSIとは
movement system impairments の略であり、
日本語にすると「運動機能障害症候群」となります。
患者さんの痛みの出るパターンを評価し、その人の動きやすい癖、過剰にストレスがかかっている箇所を見出し、原因に対してエクササイズを指導してマネジメントをする。
ざっくり過ぎる説明ですが、慢性疼痛疾患が多い整形外科クリニックには非常に有益なコンセプトだと思います。
またスポーツ選手のパフォーマンス向上にも適応で、実際にトレーナーとしてコンディショニングを行なっている知り合いもいます。
目次
MSIアプローチのコンセプト
MSIアプローチにおける痛みの考え方
整形クリニックで多い痛みのほとんどは原因やきっかけがないものです。
捻挫や骨折のような明らかな原因があるものよりも、
という訴えを非常に多く聞きます。
そのような場合、普段の生活での動作が繰り返しストレスとなってその部位に損傷を起こして痛みになっている可能性があります。
わかりやすい例をあげるとボールペンの芯を取り出し“くにゃっ”と曲げてみると、金属の部分は硬くて曲がらないけど、プラスチックの部分は柔らかくて曲がりますよね?
それを繰り返し曲げ続けるとプラスチックの部分は損傷してきます。その損傷部位が痛みにつながる訳です。
人間の体には適度なストレスがかかる事で生態を維持する事が出来ます。
廃用で全くストレスがかからない事も、オーバーユースでストレスがかかりすぎる事も組織に負の影響を及ぼします。
相対的柔軟性について
人の体には柔軟な部分と硬い部分が混在していいます。
硬い部分は動作での動きが少なく、逆に柔らかい部分はより大きく動きます。
ヒトの身体で例をあげると座位で骨盤中間位、腰椎を中間位として片膝を伸展させハムストリングスを伸長した時に、
①腰椎は中間位のまま
②腰椎が屈曲するパターン
がみられると思います。
①はハムストリングスと腰背筋の硬さは同等という捉え方になります。
②はハムストリングの硬さに骨盤が引っ張られ後傾し、腰椎が屈曲します。
ハムストリングスの硬さよりも腰背筋の方が柔軟であるという捉え方になります。
つまりハムストリングスは腰背筋よりも相対的に硬いという事が言えます。
柔軟性を診る時には、相対的にその筋肉が硬いか、柔らかいかを見極める必要があります。
このように柔軟性の相対的な違いをMSIアプローチのコンセプトでは相対的柔軟性と呼んでいます。
ボールペンの例を例えると、金属部位がハムストリングス、プラスチック部位が腰背筋となります。
DSM(特定方向への動きやすさ)
先ほどの②の例は、ハムストリングスが伸長される動作では先行して腰椎が屈曲しやすくなります。この腰椎屈曲の過可動性が動作にて繰り返される事で、腰椎にストレスが頻回に加わり痛みにつながります。
人間の身体は常に抵抗の少ないところから運動が起こるようになっていて最小抵抗の軌道を通り、特定方向の動きやすさを生じさせます。
この特定方向の動きやすさをDSM(Directionai Susceptibility to Movement)と呼びます。
つまり②の例は腰椎屈曲DSMと言うことになります。
アプローチとしては硬いハムストリングスを柔軟にするだけではなく、腰背筋の過可動性を抑えるための安定性を向上させる事が必要になります。
例として、腰背筋を収縮させ、腰椎が屈曲しないようにしてハムストリングスをストレッチします。
腰が痛いからといって、腰椎屈曲DSMがある患者さんにひたすら腰部を柔らかくするようなアプローチをしても症状を助長させてしまうだけになります。
またハムストリングスの柔軟性を獲得するだけでも問題は解決しません。
また比較的臨床でよく見かけるのは、スクワット動作やランジ動作時のKnee inですが、股関節が内旋位になりやすい患者、また脛骨大腿関節が過剰に回旋する患者を多く見かけます。
これはそれぞれ股関節内旋DSM・脛骨大腿関節回旋DSMという事になります。
相対的柔軟性を見極め、支持性を高めるべき部位か、柔軟性を高めるべき部位か、しっかりと評価するとアプローチの視野は格段に広がります。
二次検査で評価・アプローチポイントを絞る
MSIアプローチの特徴として動作を修正する二次検査が用いられます。
分かりやすい例で説明します。
前屈の際に腰に痛みがある患者がいるとします。
その前屈動作は、股関節の屈曲が乏しく、腰椎の屈曲が過剰に出現する運動パターン、つまり腰椎屈曲DSMであるとします。(一次検査)
その患者に対し、前屈の際に腰椎から曲げるのではなく、股関節の屈曲を意識させて前屈をさせたとします。(二次検査)
二次検査で動作を修正し、症状が改善されればこの患者には股関節の屈曲を学習させるようなアプローチが必要である可能性が高いと判断できます。
そして腰椎屈曲が過剰で股関節屈曲が乏しい要因を基本的な評価から見出していきます。
股関節屈曲には股関節伸筋の柔軟性がなくてはならないな・・・
●大殿筋の柔軟性は?
●ハムストリングスの柔軟性は?
股関節屈曲させるための筋力は十分か?
●股関節屈筋のMMTは?
腰椎が過剰に屈曲するということは伸展筋の筋力は十分か?
●腰椎伸展筋のMMTは?
ここで問題がみられた部分にアプローチしていくという流れになります。
ADLや普段の動作をマネジメントする
もっとも重要なのは普段の生活でDSMを生じさせる動作を修正させる事となります。
腰椎が過剰に屈曲する腰椎DSMの場合、普段の姿勢で腰椎屈曲位の態勢でいる事が多い可能性があります。
臨床上多く見かけるのが、デスクワークや車の運転などで骨盤後傾位、腰椎屈曲位で長くいるパターンです。
日常的に腰椎屈曲位をとる事でDSMを助長してしまいます。
このような患者の場合は普段の座位姿勢の修正をする事が大切となります。
座面にクッションを置いて骨盤後傾位を修正したり、デスクを高くする事で脊柱伸展位を保ちやすく修正したり、方法は多岐にわたります。
また屈む際は腰からではなく、股関節を意識するようにする事も有効でしょう。
このようにその運動パターン・DSMを修正するために、ADLや動作をマネジメントしていく事もMSIアプローチの特徴です。
まとめ
私はこのMSIアプローチを学ぶようになって患者さんの評価の引き出しを格段と増やすことが出来ました。
あくまで考え方の一つですが、特に整形外科クリニックに通ってくる慢性疼痛患者に対しては非常に有効なコンセプトではないかと思います。
評価や治療エクササイズは決して難しいものではなく、学校で習うような基本的な事を中心としています。
基本的な評価方法や運動パターンを学ぶべき若手理学療法士にはオススメのコンセプトです。
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MSIのコンセプトから私が臨床で用いているリハビリの考え方です
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