私は現在整形外科クリニックに努めていますが、私のクリニックにてリハビリで最も多く接するのは「膝」の疾患を有する患者さんです。
膝の痛みを訴える疾患といえば、
- 変形性膝関節症
- 前十字靭帯損傷
- 膝蓋靱帯炎
- 内側側副靱帯損傷
- 鵞足炎
- 腸脛靭帯炎
- タナ障害
などなど多岐に渡ります。
その中でも比較的訴えの多い膝の内側の痛みについて書いていきます。
目次
膝の内側に起こる痛みの原因
膝の内側の痛みは何かしらのストレスがかかる事によって、組織の損傷をきたして起こります。膝の内側に痛みを引き起こす力学的ストレスとして、大きく分けて以下の2つが挙げられます。
- 伸張(+剪断)ストレス
- 圧縮(+剪断)ストレス
伸張ストレスは脛骨大腿関節が外反強制される事によって、圧縮ストレスは内反強制される事によって生じます。
大まかにはこの二つの力学的ストレスが加わる事で膝への痛みが生じます。
ランジやスクワットなどでの膝の向きや再現痛の部位を評価しましょう!
伸張ストレスによって痛みを生じる部位
膝の伸張ストレスによって疼痛が生じる場合には、内側に存在する以下の組織の損傷を疑います。
- 内側側副靭帯
- 鵞足(縫工筋・薄筋・半腱様筋)
- 半膜様筋・腓腹筋内側頭
これらの組織が過度に引っ張られる伸張ストレスによって痛みの原因となる事が多いです。
内側側副靭帯(MCL)
MCLの損傷を評価するテストとしては外反ストレステストが一般的です。MCLの主な役割としては脛骨大腿関節の外反を制動する事が広く知られていますが、他の機能として
MCLは下腿の外旋制動の役割も有している
という事が挙げられます。そのためMCL損傷では最大屈曲時や、下腿内旋の動きに乏しい場合にも内側に痛みを生じることがあります。
鵞足
鵞足を構成する筋は縫工筋・薄筋・半腱様筋です。判別は鵞足テストにて原因となっている筋肉を評価します。
膝の外反や下腿の外旋アライメントを呈する事によって、鵞足構成筋の過剰な筋収縮が起こります。その過剰な筋収縮が滑液包への摩擦ストレスを生じさせ、痛みが出現するといわれています。
また鵞足構成筋は下腿の筋膜と連結しています。そのため、腓腹筋の筋力低下がみられると、鵞足構成筋が代償として過剰に収縮を起こすことがあり、鵞足炎を引き起こすと考えられます。
鵞足の圧痛を診る場合は、鵞足部だけでは判別が困難なことが多いです。そのため近位の筋腹まで触診をして各筋の圧痛を確認する事が重要です。
半膜様筋
画像引用:運動器疾患の「なぜ?」がわかる治療戦略
半膜様筋の停止部は後斜靭帯、斜膝窩靭帯、膝窩筋です。このように停止部が多く、膝窩部に広く付着するという特徴があります。
しかも付着するのが膝の安定性に寄与する靭帯であるため、MCLや斜膝窩靭帯、膝窩筋に損傷がある場合に、半膜様筋の収縮によって靱帯に力学的ストレスが加わり痛みを生じることがあります。
またこれらの靭帯に不安定性があると代償的に半膜様筋の過剰収縮がみられ、スパズムとなり、痛みの原因となる場合もあります。
腓腹筋内側頭
腓腹筋内側頭の起始部は半膜様筋に覆われるようにして深層に存在します。そのため、半膜様筋や腓腹筋の筋緊張の異常や短縮が生じると、両筋の滑走不全が生じ、スパズムを生じて痛みが起こる事もあります。
伸張ストレスを生じさせている原因は?
以上のように膝内側の痛みの局所部位について把握出来たら、なぜ膝の伸張ストレスが増大しているかを考察していく必要があります。先ほども言いましたが、この伸張ストレスが生じるのは
- 膝の外反
- 下腿の外旋
が強制された時です。これを生じさせる運動学的要因は以下の5つが挙げられます。
2.膝関節の外反不安定性
3.膝関節の屈曲拘縮
4.股関節外転筋の筋力低下
5.下腿三頭筋の筋力低下
下腿の回旋異常
変形性膝関節症などでみられる下腿過外旋アライメントは、MCL、鵞足、半膜様筋、腓腹筋内側頭への伸長ストレスを増大させます。
膝関節の外反不安定性
MCLの損傷などにより静的な安定性が失われると、動的安定性として働く半膜様筋、腓腹筋内側頭が過活動を起こし、筋性の疼痛を起こします。
膝関節の屈曲拘縮
膝の伸展制限があると、靭帯が緩み静的な安定性が低下し不安定となります。それを代償するために、半膜様筋や腓腹筋内側頭が同時収縮を起こし、筋性の疼痛を引き起こします。
股関節外転筋の筋力低下
股関節外転筋の筋力低下があると、股関節は内転内旋位となるため、膝は外反位となり伸長ストレスが増大します。
下腿三頭筋力の筋力低下
鵞足構成筋は下腿の筋膜に付着しており、下腿三頭筋の筋力低下が起こると代償的に鵞足の過剰収縮がみられます。そのため鵞足へのストレスが強まり鵞足炎を生じやすくなります。
特にスポーツをしている人の鵞足の痛みには既往歴の聴取が重要!
圧縮ストレスによって痛みを生じる部位
膝の内側部の圧縮ストレスによって痛みを生じる主な部位は内側半月板です。
内側半月板
内側半月板の辺緑部1/3には侵害受容器が存在しており、これらの部位の損傷があり、圧縮ストレスがかかる事により膝の内側部痛が生じます。
半月板には半膜様筋腱が後斜靭帯、後方関節包を介して付着します。そのため膝の運動時に半膜様筋の収縮によって、半月板は移動をします。半膜様筋に短縮や、筋力低下が起こると、半月板の可動性が低下し、屈曲時に圧縮ストレスを受けて痛みが生じる事もあります。
圧縮ストレスを生じさせている原因は?
圧縮ストレスは膝の内反によって増大します。この内反を生じさせる主な原因は以下となります。
2.半膜様筋の収縮不全
3.大腿四頭筋の筋力低下
4.膝蓋下脂肪体の拘縮
膝関節の屈曲拘縮
膝関節が屈曲位では靭帯の安定性が欠如し、側方不安定性が増大します。その状態になることによって、半月板には圧縮ストレスや剪断ストレスが増大する事になります。
半膜様筋の収縮不全
半膜様筋は後斜靭帯、後方関節包を介して半月板と連結しています。そのため、半膜様筋の収縮不全が起こると、半月板の後方移動が阻害されます。そうする事によって半月板への圧縮ストレスが加わり痛みが生じます。
大腿四頭筋の筋力低下
大腿四頭筋の収縮は膝蓋下脂肪体を介して、半月膝蓋靭帯を介して半月板の前方移動を促します。そのため大腿四頭筋に筋力低下がみられると、半月板の前方移動が阻害され、挟み込みが生じて痛みが起こると考えられます。
膝蓋下脂肪体の拘縮
膝蓋下脂肪体は膝蓋靭帯の深層に存在する脂肪組織で、半月板の前方移動の誘導や後方移動の制動に作用します。そのため膝蓋下脂肪体が拘縮すると半月板の後方移動を阻害し、膝屈曲時に半月板の後方インピンジメントを生じさせ痛みが起こる事があります。
まとめ
膝の内側に生じる痛みは、
- どのような力学的ストレスなのか
- どこの部位なのか
を明確にする事によって的を絞ったアプローチを行う事ができます。しかし、痛みの正確な抽出はなかなか難しいのが正直なところですが、より多くの仮説が立てられるように、仮説の引き出しを多く持っておくことが重要です。
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