前回、膝の内側の痛みについての考え方を書きました。
内側の痛みと同様、膝の外側の痛みも臨床上多く遭遇します。
今回は膝の外側の痛みについての考え方と部位について書いていきます。
目次
膝の外側に起こる力学的ストレス
膝の外側に生じる痛みは何かしらのストレスがかかる事によって、組織が損傷を起こして発生します。その痛みを引き起こす力学的ストレスとして、膝の外側に生じるものは大きく分けて以下の3つが挙げられます。
- 伸張ストレス
- 摩擦ストレス
- 圧縮ストレス
それぞれの力学的ストレスは以下の時に発生します。
摩擦ストレス=外側に存在する組織の伸張性が低下した時
圧縮ストレス=伸張ストレスと同様に内反強制された時
伸張ストレスによって痛みを生じる場合
膝の外側に伸張ストレスが加わり痛みが生じる場合は、後外側支持機構(PLS)に損傷があると考えられます。
後外側支持機構(PLS)とは?
画像引用:整形外科運動療法ナビゲーション
後外側支持機構(PLS)とは外側側副靭帯(LCL)・膝窩筋腱・膝窩腓骨靭帯で構成されている、膝の外側の安定性に寄与する部分です。(ファベラ腓骨靭帯・弓状靭帯を含む場合もあり)
主に膝の内反、下腿の外旋を制動しており、外側の安定性を提供している重要な部位です。
そのため、内反膝や下腿の過外旋ではこれらの組織が伸張されるストレスを受けるため痛みの原因となります。
歩行では、
踵接地時に踵骨の回外、
立脚後期に前足部の外転
がみられることが多いです。
後外側支持機構(PLS)の疼痛誘発テスト
背臥位で膝は90°屈曲位とします。
脛骨の上端を把持し、脛骨を後外側方向へ押し込みます。
健側と比べて、脛骨が過度に後外側に落ち込んだら陽性とします。
伸張ストレスを生じさせている原因は?
膝の外側の伸張ストレスによって、後外側支持機構の損傷が起こります。この伸張ストレスが生じるのは、
- 膝の内反
- 下腿の過外旋
が強制された時です。よく見られるのは歩行中に膝の内反が強まるラテラルスラストです。このような後外側支持機構に伸張ストレスが生じる原因としては主に以下の3つが挙げられます。
2.腸脛靭帯の過緊張
3.膝関節の内反不安定性
下腿の回旋異常
下腿の過外旋アライメントにより、後外側支持機構は過度に伸張されます。また下腿の過外旋は、下腿内旋筋である膝窩筋、半膜様筋の機能低下を引き起こします。
腸脛靭帯の過緊張
中殿筋と大腿筋膜張筋は遠位で腸脛靭帯と連結します。これらの筋に短縮がみられると、腸脛靭帯の過緊張を引き起こします。腸脛靭帯の過緊張は下腿の外旋を引き起こします。それによって後外側支持機構に伸張ストレスが生じるのです。
※また中殿筋や大殿筋の筋力低下は、代償的に大腿筋膜張筋の過活動を引き起こします。それによって腸脛靭帯が過緊張を起こす場合もあります。
膝の内反不安定性
膝を内反強制されると、膝の外側には伸張ストレスが生じます。そのために内反不安定があると、後外側支持機構への伸張ストレスを増大させます。
内反不安定性を生じさせている原因を全身のつながりからみることも重要です!
摩擦ストレスによって痛みを生じる場合
膝の外側部で摩擦ストレスによって痛みを生じる場合、問題となるのは大腿二頭筋と外側側副靭帯です。
大腿二頭筋と外側側副靭帯の走行
大腿二頭筋は坐骨結節から腓骨頭に向かって走行しています。写真のように停止部付近では外側側副靭帯の後外側を通って腓骨頭に向かっています。この走行から大腿二頭筋と外側側副靭帯との間には摩擦ストレスが加わりやすくなります。
摩擦ストレスを生じさせている原因は?
膝の外側の摩擦ストレスを引き起こすのは、大腿二頭筋の過緊張です。これを生じさせる原因として以下の2つの運動学的要因が挙げられます。
2.腸脛靭帯の過緊張
下腿の回旋異常
大腿二頭筋は下腿を外旋させる作用があります。下腿外旋アライメントが定着する事で、大腿二頭筋の短縮が生じ、摩擦ストレスが増大します。
腸脛靭帯の過緊張
先ほどの伸張ストレスにも挙げましたが、腸脛靭帯の過緊張は下腿の過外旋を引き起こします。下腿過外旋により、大腿二頭筋が短縮して摩擦ストレスの増大を引き起こします。
変形性膝関節症では骨盤後傾→膝伸展制限→下腿外旋となるパターンが多いですよね?どれも大腿二頭筋の短縮が原因となります!
大腿二頭筋、要チェックです!!
圧縮ストレスによって痛みを感じる場合
圧縮ストレスは内反強制された時に生じますが、問題となっているのは腸脛靭帯です。先ほど、伸張ストレスも内反強制された時に生じると書いたので混乱しそうですが、内反位になる事で、腸脛靭帯が大腿骨に対して圧迫するような力が加わるということです。
腸脛靭帯について
腸脛靭帯は大腿筋膜張筋、大殿筋から連結し、脛骨のGerdy結節に付着します。主な機能は以下の通りです。
- 股関節の内転制動
- 膝の内反制動
- 下腿の内旋制動
膝の屈伸動作に伴い、腸脛靭帯は大腿骨外側上顆によって外側に押し上げられます。腸脛靭帯と大腿骨の間には脂肪体が存在し、神経終末や血管が多く存在すると言われています。膝が内反位となると大腿骨と腸脛靭帯の間のスペースは狭くなり、圧縮ストレスが強まる事から脂肪体が炎症を起こし痛みを引き起こすと考えられます。
ランナー膝とよばれる腸脛靭帯炎もこのようなメカニズムで発症すると考えられます。
また大腿筋膜張筋と大殿筋との連結が密であるため、これらの筋が硬くなると腸脛靭帯は過緊張となるので要チェックです!!
圧縮ストレスを生じさせている原因は?
膝の外側部に圧縮ストレスを生じさせる原因は以下の3点が挙げられます。
2.膝関節の内反不安定性
3.外側広筋の過緊張
腸脛靭帯の過緊張
大殿筋、中殿筋、大腿筋膜張筋の短縮は腸脛靭帯の過緊張を引き起こします。また腸脛靭帯の過緊張は下腿の過外旋も誘発するため、下腿の回旋評価も必要です。
膝関節の内反不安定性
腸脛靭帯は内反を制動します。そのため膝が内反すると、腸脛靭帯の緊張が亢進し、圧縮ストレスが強まります。
外側広筋の過緊張
外側広筋は大腿部の筋膜を通して、腸脛靭帯に影響を及ぼします。外側広筋が短縮すると腸脛靭帯の過緊張を引き起こし、圧縮ストレスを強める要因となります。
まとめ
膝の外側に生じるの痛みは、
- どのような力学的ストレスが原因になっているか
- どの部位に痛みが生じているのか
を評価する事が重要です。
私の臨床の経験上では、
- 大腿外側部(外側広筋・大腿二頭筋・腸脛靭帯)の柔軟性低下
- 大殿筋・大腿筋膜張筋柔軟性低下
- 膝窩筋機能低下
- 距骨下関節回外位
- 下腿内旋可動域低下
- 股関節内転可動域低下
- 骨盤前傾不足
が問題点となっている事が多く、これらを改善するためのアプローチをが有効です。一つ一つ仮説を立てて、検証していく事が重要です。
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