今回はアナトミートレインの主要ラインであるスパイラルライン(SPL)について書いて行きます。
アナトミートレインは頭に入っていると評価や治療の視野が大きく広がります。
目次
スパイラルライン(SPL)
アナトミートレインのラインの種類の一つで、頭蓋骨から足部を通り、再び頭蓋骨に戻る、全身を取り巻くように螺旋に広がるラインです。
筋膜経路は以下のようになります。
引用:フィッシャルリリーステクニック
頭板状筋・頚板状筋
↓
大小菱形筋(頭板状筋・頚板状筋の対側の)
↓
前鋸筋
↓
外腹斜筋
↓
内腹斜筋(外腹斜筋の対側の)
↓
大腿筋膜張筋・腸脛靭帯
↓
前脛骨筋
↓
長腓骨筋
↓
大腿二頭筋
↓
脊柱起立筋
↓
後頭骨へ
スパイラルライン(SPL)の特徴
身体バランスの維持・回旋動作に作用
身体を二重らせんに取り巻き、すべての平面において身体バランスの維持に関与します。
スパイラルラインは他の多くのラインに加わるため、スパイラルラインに機能不全が起こると他のラインに影響を及ぼします。
運動としては等尺性収縮、遠心性収縮により体幹下肢を固定し、回旋による転倒を防いでいます。
アナトミートレインのラインの中で最も長い
SPLは身体の上部から開始し、対側の肩甲骨を通過後、腹斜筋を通り同側下肢を下降して足底で折り返し、上行して脊柱起立筋を経て上部で終わります。スタートとゴールの部位が同じとなります。上位から下位を通って再び上位に戻るため、アナトミートレインのラインの中でも最も長いラインとなっています。
他のラインとの接続も多いため、他のラインの影響を受けやすい、または影響を与えやすいという事になります。
スパイラルライン(SPL)の治療への応用
頸部や肩甲帯への影響
FHP(頭頸部前方位)では肩甲骨が外転位となりやすく、菱形筋が伸長位、前鋸筋が短縮位で固定されている事になります。菱形筋と前鋸筋の連結は非常に強固であるとされています。どちらかの問題は他方に大きく影響を及ぼします。
さらに胸骨下角の狭小が見られる場合は外腹斜筋の短縮も示唆されます。臨床で多くみるパターンは、車の運転時に左肘を肘置きに置く人はこのスパイラルラインに問題がある事が多い気がします。
左肩甲骨外転位(菱形筋伸張位・前鋸筋短縮位)
↓
左胸骨下角狭小(左外腹斜筋の短縮)
↓
右大腿筋膜張筋・前脛骨筋の過緊張
といったパターンで左肩などに問題を抱える人を多く見かけます。その場合、左肩へのアプローチだけでは改善しない場合、外腹斜筋や、対側の大腿筋膜張筋などにアプローチする事で改善する事もあります。
また足を組む癖のある人や、仕事やスポーツで回旋動作が多い場合もSPLに問題がある事が多い印象です。
足部と骨盤の関係
引用:アナトミートレイン
スパイラルライン上では前脛骨筋は長腓骨筋と第1中足骨・内側楔状骨を介して連結しスリング(あぶみ)を形成しています。
前脛骨筋が短縮すると長腓骨筋は伸張位となり、足部は回外(内反)となります。逆に前脛骨筋が伸張位、長腓骨筋が短縮位となると足部は回内(外反)位となります。これらに短縮や伸張があると足部の形状やアーチの形成に大きく影響を及ぼします。
また前脛骨筋と腸腓骨筋のスリングは足部と骨盤が連動して以下の代償パターンを引き起こします。
骨盤が前傾=足部外反
→上前腸骨棘が足部に近づくため前脛骨筋が緩み内側縦アーチが落ち込むため
骨盤が後傾=足部内反
→上前腸骨棘が足部から離れて前脛骨筋が緊張し足部内反するため
また下肢のスパイラルライン前面は大腿筋膜張筋~前脛骨筋、後面は長腓骨筋~大腿二頭筋と連結しています。
そのため部分的な短縮があると骨盤足部ともに影響を受けます。
下肢スパイラルライン後面短縮=骨盤後傾・足部外反
下肢スパイラルライン前面短縮=骨盤前傾・足部内反
下部スパイラルラインと膝の関係
引用:アナトミートレイン
大腿筋膜張筋~腸脛靭帯~前脛骨筋のラインの過緊張や短縮が診られる場合は膝が内側に入るいわゆるKnee・inを呈します。
私は膝の疾患ではスクワットとランジを毎回評価しますが、Knee・inを呈している場合そのほどんどが大腿筋膜張筋・腸脛靭帯・前脛骨筋のいずれかにスパズムを認めます。
その他まとめ
先日治療をしたケースで、左肩の痛みの訴えのある患者さんで左肩甲骨の下方回旋、外転位が問題となっていましたが、右側の前脛骨筋と大腿筋膜張筋の緩める事で痛みが軽減した事がありました。SPLの問題も原因の1つだった可能性があります。
また左側の肩凝りの訴えがある人も、右側の後頭下筋の緊張が高い人も多くいます。
静止アラインメントの評価で
- 肩甲骨の位置の左右差
- 上部体幹と骨盤の回旋
- 胸骨下角(剣状突起と肋骨弓との角度)の左右差
- 膝関節の内外反
- 足関節の内外反
などで所見があるとスパイラルラインの問題がある場合が多い印象です。そうなると整形クリニックで来院される患者さんの静止アラインメントって上記のどれかが引っかかって来る人が多いですね。
スパイラルラインは他のラインへの影響が大きいため、評価してみるとアプローチの視野が広がります。
オススメ著書
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アナトミー・トレイン [Web動画付] 第3版: 徒手運動療法のための筋筋膜経線
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ファッシャル・リリース・テクニック―身体構造のバランスを整える筋膜リリース技術